退職日は決まったのに、有給の話だけが宙に浮いたままになっていませんか。
先に、この記事でいちばん伝えたいところを書きます。有給を消化できるかどうかは、有給の交渉ではなく、退職日を誰が決めたかでほとんど決まります。師長に「取らせてください」と言う前に、退職日と最終出勤日を別の日として置けているかどうか。分岐はそこにあります。
わたしはあさこ。急性期の内科外科混合病棟で7年、3交代で月10〜12回の夜勤をしていました。12月に退職願を出したときの希望は1月末で、実際に辞めたのは3月31日付です。退職日を自分で決められなかった側の人間なので、この順番の重さだけは書けます。
ここに置くのは、退職日から最終出勤日を逆算する数え方、断られたときに効く労働基準法39条の使いどころ、面談でそのまま口に出せる言葉、それでも動かないときに当たる窓口の順番です。日数の数え方は、あなたの給与明細と先月の勤務表で回せる形にしてあります。
もう退職日に合意してしまった人も、間に合わないと決めつけないでください。合意したのは辞める日であって、最後に出勤する日ではないことがほとんどです。全部は入らなくても、入る日数だけ取り返す道は残っています。
看護師が有給消化させてもらえないまま退職しないための順番
やることは交渉ではなくて、日付の計算です。順番を間違えると、正しい主張をしても日程が入りません。
順番に見ていきます。
退職日と最終出勤日は別
ここが最初で最大の分かれ道です。退職日は雇用契約が終わる日、最終出勤日は最後に病棟に立つ日で、この2つはまったく別の日付として置けます。同じ日にしなければいけない決まりはどこにもありません。
有給は在籍している期間の勤務日にしか当てられません。裏を返すと、最終出勤日の翌日から退職日までのあいだを、まるごと有給で埋めることができます。3月31日退職で残20日なら、最後に白衣を着るのは2月の終わりごろ、というのが本来の絵です。
ところが多くの人は「3月31日まで働いて、そのあと有給」と思っています。わたしもそう思っていました。退職日を過ぎた有給というものは存在しないので、この思い込みのまま日付を合意すると、残日数はその瞬間に全部消えます。
だから師長に伝える数字は、退職日ひとつではなく2つです。退職日と、最終出勤日。この2つを口に出した時点で、話し合いの対象が「辞めるか辞めないか」から「日程をどう組むか」に切り替わります。
あさこ最後に出勤する日は、辞める日と同じでなくていいです
有給20日は暦で約1か月
有給は勤務日にしか当たりません。公休の日に有給が使われることもないし、あいだに挟まった公休が残日数を減らすこともないです。これが計算のいちばん大事な前提になります。
3交代の病棟だと、月の公休はだいたい9〜10日。つまり月の勤務日は20日前後です。ここから素直に計算すると、こうなります。
- 残10日 → 暦で約2週間
- 残20日 → 暦で約1か月
- 残30日 → 暦で約1か月半
- 残40日 → 暦で約2か月
4週8休の職場なら月の勤務日が22日前後になるので、必要な暦はもう少し短くなります。逆に、公休が多い職場ほど有給を使い切るのに時間がかかる仕組みです。
2交代の職場は数え方が変わるので、上の表をそのまま当てないでください。16時間夜勤を1回入ると2日ぶんの勤務として扱う病院が多く、月の勤務日数は15日から17日くらいに落ちます。同じ残20日でも、必要な暦は1か月より長くなる計算です。
自分の数字を出すいちばん早い方法は、先月の勤務表を見ることです。日勤と、夜勤に入った日を数えて、その合計が月の勤務日数になります。残日数をその数で割れば、必要な月数がそのまま出ます。3交代か2交代かで悩むより、手元の1枚を数えるほうが正確です。
逆算の式にすると、最終出勤日=退職日−(残日数÷月の勤務日数)か月。紙に退職日を書いて、そこから左に線を引いてください。線の左端が、あなたが最後に病棟へ行く日です。ここまで出せたら、あとはその日付を相手に渡すだけになります。
残日数は明細で数える
戦う根拠を持てない人のほとんどは、自分が何日持っているかを数えたことがありません。まず給与明細を1枚出してください。「有休残」「年休残」「年次有給休暇残日数」といった欄が入っている病院が多いです。
載っていなければ人事課か総務課に照会します。これは請求ではなく確認なので、退職の話を切り出す前でも普通に聞けます。「今年度の付与日数と、繰越を含めた残日数を教えてください」と書いて送れば済みます。
年休の請求権の時効は2年です(労働基準法115条)。勤続6年6か月を超えると年20日付与なので、前年度の繰越と合わせて最大40日を持っている人が出てきます。7年目の看護師なら、この40日に近い人は珍しくありません。
あわせて確認しておきたいのが付与の基準日です。入職日を基準にする病院と、4月1日に全員へ一斉付与する病院があります。基準日をまたぐかどうかで手持ちが20日変わるので、退職日を数日動かす価値があるかどうかは、ここを見ないと判断できません。運用は病院ごとに違うので、必ず就業規則の条文と人事の回答で確かめてください。
同じ明細で、休憩として引かれている分数も一度見ておいてください。有給と違って残日数の欄はありませんが、1回45分が毎勤務引かれているなら、そちらも年単位では大きな金額になります。数え方は休憩が取れないときに明細のどこを見るかに書きました。
シフト確定前に出す
制度の話より先に、現場には時間の制約があります。次月のシフトは前月の10日から15日ごろに固まる病院が多く、いったん組まれてしまうと「もう出しちゃったから」で押し切られます。
組まれる前なら、有給は勤務表の作成段階で吸収できます。組まれた後だと、誰かの休みを動かす話になります。同じ請求でも相手の負担がまるで違うので、通りやすさが変わるのは当たり前です。
だから、退職の意思がもう固まっているなら、月の前半のうちに最終出勤日を書いた紙を出してください。まだ退職日そのものが宙に浮いている段階なら、日付の主導権を取り返すほうが先です。何回目から押し返していいのかは退職の引き止めに3回遭ったときの返し方のほうに細かく置いてあります。
ちなみに年度末は、この時間制約がいちばんきつく出る時期です。2月から3月は病棟の人員がもっとも薄くて、新年度のシフトも動かせません。年度末退職を選ぶなら、逆算はその分だけ早めに始める必要があります。
退職日が決まった後でも
ここまで読んで「もう年度末で合意してしまった」と思った人に、いちばん伝えたいことがあります。あなたが合意したのは、たぶん退職日だけです。最後に出勤する日まで一緒に決めた人は、ほとんどいません。
退職日が動かせなくても、その手前の勤務日はまだ空いています。だから今からでも出せます。「退職日は◯月◯日で承知しています。最終出勤日を◯月◯日にさせてください」。退職日を蒸し返さない言い方にすると、相手も受け取りやすくなります。
それと、ここで多くの人が間違えるのが、全部入らないなら意味がないと思ってしまうことです。有給はゼロか全部かではありません。32日持っていて10日しか入らないなら、その10日を取ればいいだけです。入れる順番はこうなります。
- まだ組まれていない月から埋める
- 年5日ぶんは必ず入れる
- 残りは公休につなげて固める
最後の1つは、休みが飛び石になるより連続するほうが体が戻るからです。年5日を先に確保するのは、そこだけは病院側にも取らせる義務があって、いちばん断られにくいからになります。



全部入らないなら意味がない、というものではないです
断られたときに効くのは労働基準法39条の3か所
条文を全部覚える必要はありません。退職時に効くのは3か所だけです。
それぞれ詳しく見ていきます。
時季変更権は振替先が要る
病院が「その時期は困る」と言えるのは、労働基準法39条5項のただし書を根拠にしています。条文はこうです。請求された時季に有給を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
読んで分かるとおり、これは拒否権ではありません。ずらす先の日を用意する義務とセットになった、日程変更の権利です。ここを取り違えている人が、病院側にも労働者側にもかなりいます。
しかも「忙しいから」だけでは足りません。代わりの人員を確保するのが客観的に難しい、といった具体的な事情が要ります。病棟がいつも忙しいのは前提であって、それを理由にしてしまうと年間を通じて誰も有給を取れないことになるからです。
だから面談で「3月は無理だと思う」と言われたら、聞き返すのは1つです。では、いつなら取れますか。振替先の日付が返ってこない場合、その発言は時季変更権の行使になっていません。
退職日より後ろに日はない
ここが退職時だけに効く決定打になります。退職日を過ぎると労働契約そのものが無くなるので、有給を振り替える先の勤務日が物理的に存在しません。
ずらす先が無い以上、退職日までを埋める請求に対しては時季変更権を行使できない、というのが一般的な理解です。だから「退職日が確定していること」が、有給を守るいちばん強い材料になります。日付を決めないまま有給の話だけを進めても、相手にはいくらでも先送りの余地が残ります。
ただし、ここは正確に押さえておいてください。退職日までにまだ勤務日が残っている場合は、その範囲で日をずらす余地があります。「20日すべてを2月に」という請求に対して、「2月と3月に分けて」と返すのは成り立ちうる話です。裁判でも、退職直前の請求について変更を認めた例があります。
この構造から出てくる結論が、記事の冒頭に書いたことです。退職日を後ろに延ばされるほど、病院側に振替の余地が生まれます。引き止めに応じて退職日を2か月延ばすというのは、有給の交渉から見ると自分の切り札を2か月ぶん相手に渡す行為でもあります。



退職日を延ばすほど、有給をずらす口実が相手に増えます
年5日は病院側の義務
2019年4月から、労働基準法39条7項で使用者側に義務が課されています。年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について、そのうち5日は使用者が時季を指定して取得させなければならないという内容です。
労働者が自分の意思で5日以上取っていれば、その分は義務を果たしたことになります。逆に、年度の途中で辞めるからといって病院がこの義務から外れるわけではありません。
違反したときの罰則は、労働者1人につき30万円以下の罰金です(同法120条)。ここを知っておくと、面談の景色が少し変わります。有給を取らせないことは病院にとって好都合な判断ではなくて、単純にリスクを抱える行為なんです。
使い方としては、責める言葉ではなく確認の言葉にしてください。「今年度、わたしの取得日数は5日に届いていますか」。この聞き方なら人事も答えざるを得ないし、答えた時点で日程を組む話に入れます。
買い取りは義務ではない
いちばん静かに損をするのがここです。年休をあらかじめ買い上げる約束をして取得させないのは違法とされています。一方で、退職の結果として残ってしまった日数を手当として支払うことは、違法ではありません。
問題は、それが病院の義務ではないところです。制度として買い取りを用意している病院もありますが、無い病院のほうが多いです。就業規則に定めが無ければ、残った日数は3月31日にただ消えます。
だから「残ったら買い取ってもらえるでしょ」と思って待つのは、いちばんやってはいけない待ち方になります。買い取りの有無を確認するのは、日程を先に押さえたあとです。順番を逆にすると、日程を組む時間だけが減っていきます。
あと、買い取ってもらえる場合でも金額の決め方は病院が定めます。1日あたりの単価が通常の賃金より低く設定されていることもあるので、原則は「使い切る」で組んでおくほうが確実です。
師長との面談でそのまま口に出せる言葉
正論を知っていることと、口から出せる形になっていることは別です。ここは台本として書きます。
一つずつ見ていきましょう。
有給の前に、そもそも辞めますの一言が出てこないという段階もあります。切り出す日をシフトから逆算する話は、師長に言えないまま止まっているときの順番のほうにまとめてあります。
権利ですから始めない
「有給は労働者の権利です」。この一言は正しいのですが、面談ではほとんど効きません。相手も知っているからです。知っている人に知っていることを言うと、話は日程ではなく感情のほうへ動きます。
看護師の世界は狭くて、揉めて辞めた記憶は残ります。関係を壊さずに日程だけ決めたいなら、最初の一言は権利の主張ではなく日付の提示にしてください。「最終出勤日を2月28日にしたいと思っています」。これだけで十分です。
相手が渋ったときも、権利の話には戻さないでください。返す言葉は「では、いつなら取れますか」。相手に日付を出させる質問にしておくと、こちらが強く出なくても話が前に進みます。
わたしが引き止められたときの2回目は、「夜勤、減らすから」と言われて終わりました。月に何回になるのかという数字は、最後まで一度も出ませんでした。数字の入らない返事は条件ではなくて引き延ばしだと、あのとき知っていたら違ったと思います。
日付を先に紙で置く
口頭だけの合意は残りません。退職届に退職日を書いて、あわせて最終出勤日と有給消化の期間を1枚にまとめてください。手書きでもメールでも構いません。
書く内容はこの4つで足ります。
- 退職日
- 最終出勤日
- 有給を当てる期間
- 現時点の残日数
紙にすると、相手の答えも「無理だと思う」では済まなくなります。日付が書かれた文書に対しては、日付で返すしかないからです。ここで話が具体的になるだけで、面談の回数はだいぶ減ります。
提出したら控えを取ってください。写真で十分です。退職届そのものの書き方や、受け取ってもらえないときの手当ては引き止めのときに出す紙の話のほうにまとめてあるので、まだ退職届を出していない人はそちらを先に見てください。
話す相手は師長ではない
これは知らないまま損をしている人がとても多いところです。有給の付与や残日数の管理は労務管理の仕事で、決裁の窓口は人事課や総務課にあります。師長はシフトの責任者であって、有給制度の決裁者ではない病院が多いです。
師長とだけ話し続けているかぎり、議論は「病棟が回らない」から出られません。それは師長にとって本当の問題だし、嘘をつかれているわけでもないです。ただ、その話をいくら続けても残日数は1日も動かないんです。
手順としては、師長に伝えたあとで同じ内容を人事にも出します。順番を飛ばすと角が立つので、師長を通り越すのではなく、二重に置くイメージで動いてください。文面は「◯月◯日付で退職予定です。残日数と、有給を当てる期間についてご確認をお願いします」で足ります。
人事に出した時点で、話は病棟の事情から制度の運用に移ります。ここまで来ると、日程が決まるまでの速度が明らかに変わります。



病棟の事情を動かせる人と、有給を決裁できる人は別です
残すのは3つの記録
揉めたときに効くのは記憶ではなく記録です。手間をかける必要はないので、次の3つだけ残してください。
- 退職届の控えと提出日
- 有給を請求した文面
- 言われた言葉と日時のメモ
3つ目は、面談から帰った日にスマホのメモへ2行書くだけで足ります。「◯月◯日、師長。3月は無理だと思うと言われた。代わりの日は出なかった」。これで十分に記録になります。
あとから労働局に相談するときも、退職代行に引き継ぐときも、最初に聞かれるのは「いつ、誰に、何を言ったか」です。ここが残っているかどうかで、相手が動き出すまでの時間がまったく変わります。
録音まではしなくて大丈夫です。ただ、メールやチャットでやり取りできる病院なら、口頭で終わらせずに文字に残るほうへ寄せておいてください。
捨てる有給がいくらになるかを明細から出す
損の大きさが分からないと、交渉する気力も湧きません。金額は自分で出せます。
順番に説明します。
有給1日の賃金は3通り
有給を取った日にいくら払われるかは、労働基準法39条9項で3つの方式から選ぶことになっています。どれを使うかは病院が就業規則で定めていて、途中で好きに切り替えられるものではありません。
- 平均賃金
- 通常の賃金
- 標準報酬日額
3つ目の標準報酬日額は健康保険の等級を使う方式で、採用するには労使協定が要ります。実際に多いのは2つ目の「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」です。就業規則の年次有給休暇の条を開けば、どれかが書いてあります。
1つ目の平均賃金は、直前3か月の賃金総額をその期間の暦日数で割る方式です。夜勤手当も含めた総額から計算するので、病棟勤務だと通常の賃金より高く出ることがあります。自分の病院がどちらなのかは、確認しておく価値があります。
夜勤手当は乗らない
通常の賃金方式のとき、有給を取った日は実際に夜勤をしていないので、夜勤手当も深夜割増も付きません。ここを知らずに「年収÷勤務日数」で計算すると、実際の金額とかなりずれます。
出し方はこうです。(基本給+毎月固定で付く手当)÷ 月の所定労働日数。明細の支給欄から、夜勤手当・時間外・深夜割増・休日手当を抜いた金額を使ってください。これに残日数を掛けたものが、捨てることになる額です。
病棟看護師の給料は夜勤手当と深夜割増の比重がとても大きいです。わたしの病棟時代の年収370万も、内訳を見れば基本給そのものは高くありませんでした。だから有給1日の額は、体感よりも小さく出ます。
それでも残日数が20日、30日と積み上がれば、金額としては相当なものになります。給料の内訳をちゃんと見たことがない人は、看護師の給料が上がらない理由を分解した記事のほうも見ておいてください。基本給と手当の比率が分かると、この計算がもっと早くなります。
医療福祉の平均取得は12.1日
ここは意外に思われるかもしれません。厚生労働省の「令和7年就労条件総合調査」によると、産業分類「医療,福祉」の年次有給休暇は平均付与17.7日・平均取得12.1日・取得率68.4%でした。
同じ調査の全体は付与18.1日・取得12.1日・取得率66.9%です。医療,福祉の取得率は、産業全体の平均より高いという結果になっています。いちばん低いのは宿泊業,飲食サービス業の50.7%、いちばん高いのは電気・ガス・熱供給・水道業の75.2%でした。
数字の前提も書いておきます。この調査は令和6年の1年間について、常用労働者30人以上の民営企業(医療法人を含む)を対象にしたものです。付与日数は繰越を除いた数字なので、退職時に手元にある最大40日とは分母が違います。混ぜて読むと数字を見誤ります。
この数字から見えてくるのは、看護師が落としているのは毎年の1日ずつではなく、辞めるときにまとまって残っている分のほうだということです。「看護師は有給が取れない職業だから」とあきらめる前に、いま自分が何日持っているかを数えてください。あきらめの理由にされてきた印象と、実際の統計は少しずれています。
それでも動かないときに当たる3つの窓口
紙を出しても人事が動かないときは、外に出します。順番があります。
以下、それぞれの中身を書きます。
人事と総務に文書で出す
外の窓口に行く前に、病院の中で文書を1本残しておいてください。ここを飛ばすと、相談先で必ず「病院にはどう伝えましたか」と聞かれます。
出すのは請求書のような大げさなものではなくて、日付の入った依頼文で構いません。退職日、最終出勤日、有給を当てる期間、残日数。この4点が書いてあって、送信日時が残る形になっていれば十分です。
返事の期限も添えておくと動きが早くなります。「◯月◯日までにご回答をお願いします」の一行があるだけで、放置されにくくなります。期限は1週間程度で足ります。
それでも回答が来ないなら、次の段階に進んでいい合図です。ここまでやって動かない病院は、あなたが粘っても動きません。
労働局の総合相談コーナー
各都道府県の労働局と労働基準監督署に「総合労働相談コーナー」が置かれています。相談は無料で、予約なしでも受けてもらえます。まずここに、記録を持って行ってください。
労働基準監督署は、労働基準法39条の違反について申告できる先です。年5日の時季指定義務を果たしていない場合も対象に入ります。申告が受理されれば、病院に対して調査や是正指導が入ることがあります。
ただし期待しすぎないでほしいところもあります。監督署はあなたの残日数を裁定してくれる機関ではないし、個別の日程を代わりに決めてくれるわけでもないです。動かすのは、あくまで病院側の法令違反の状態に対してになります。
それでも、相談に行った事実そのものが効くことはあります。病院にとって監督署の調査は面倒でしかないので、日程の話に戻る病院も実際にあります。ここは病院によるので、断言はしないでおきます。
退職代行に渡す線引き
自分ではもう話せない、というところまで来ている人もいると思います。その場合は退職代行という選択肢がありますが、有給の交渉まで任せたいなら業者の種類を選ぶ必要があります。
民間の代行業者ができるのは、退職の意思を伝えることまでです。有給の日程について病院と交渉すると、弁護士法72条の非弁行為にあたるおそれがあります。交渉まで含めるなら、弁護士か、労働組合が運営する代行を選んでください。
費用の相場や、看護師が使うときに引っかかりやすい点は看護師の退職代行を退職2回のわたしが調べた記事のほうにまとめてあります。急いでいる人は先にそちらを見てください。
ここまでの3つは順番が大事です。中で文書を残す、外の窓口に相談する、それでも駄目なら代行に渡す。飛ばして最後から入ると、費用が余計にかかるうえに記録が足りなくて動けません。
退職日を人に決められると、有給の交渉は始まりません
ここまで手順の話を書いてきたので、最後に自分のことを書きます。
わたしが退職願を出したのは12月で、希望していた退職日は1月末でした。辞めた日は3月31日付です。引き止めは3回あって、3回目には看護部長が同席していて、最終的にわたし自身の口で「3月末で」と答えました。2か月、自分から差し出した形になります。
そのあいだに、次の職場の入職日を2月から4月へ1度ずらしてもらっています。エージェントの担当にも病院にも頭を下げさせて、そのことが負い目になって、聞くべきことを聞けないまま入職しました。
あのときの有給がどうなったのか、日数も金額も、ここには書けません。手元に残しているものがないからです。書けるのは1つだけで、退職日を人に決められた人間には、有給を交渉する前提そのものが無かったということです。2月と3月のシフトは、日付が決まった時点でもう組まれていました。
だから、いま有給の話で止まっている人に本当に見てほしいのは、有給の条文よりも自分の退職日の決まり方のほうです。日付を自分で置ける人は、有給の話をほとんどしなくても消化できます。日付を相手に握られている人は、条文を全部覚えても消化できません。
そして、退職日を自分で置けるようになる条件はかなり単純で、次の入職日が決まっていることです。「◯月◯日から次が決まっています」と言える人は、最終出勤日も自分で決められます。逆に次が白紙のままだと、相手が出してきた日付に乗るしかなくなります。順番の話は転職先が決まってから退職した実体験のほうにも書きました。
わたしが2回目の転職で使ったのはMCナースネットでした。まず派遣で日勤の職場に入ってみて、合うと確信してから同じ担当の紹介で正社員に切り替えています。年収の交渉まで担当がやってくれて、370万から430万になりました。1回目のときに大手1社しか見なかった反省があるので、ジストリーにも登録して求人の相場を見比べています。
いま登録してくださいという話ではないです。ただ、自分の地域に日勤の求人が何件あって、入職日をいつに置けるのかを見るだけで、次の面談で言える言葉が変わります。MCナースネットで自分の地域の日勤求人と入職時期を見てみるところから始めても、遅くはありません。
担当との相性や、派遣から紹介に切り替えるときの流れはMCナースネットの評判を使ったわたしが正直に書いた記事に細かく置いてあります。
看護師の有給消化と退職でよくある質問
面談の前後で聞かれることが多いところをまとめました。
- 有給を全部使ってから辞めることはできますか?
-
できます。最終出勤日の翌日から退職日までを有給で埋める形にします。退職日を過ぎた分は消えるので、残日数から逆算して最終出勤日を先に置いてください。
- 師長に「3月は無理」と言われました。従う必要はありますか?
-
代わりの日が示されていないなら、それは時季変更権の行使になっていません。労働基準法39条5項ただし書は「他の時季にこれを与えることができる」という条文なので、振替先の日付とセットで初めて成立します。
- 退職前の有給に時季変更権が使われることはありますか?
-
退職日までにまだ勤務日が残っている場合は、その範囲で日をずらされる余地があります。退職日より後ろには振替先が無いので、退職日までを埋める請求そのものを止めることはできないと解されています。
- 有給の残日数はどこで確認できますか?
-
まず給与明細の「有休残」「年休残」欄を見てください。載っていなければ人事課か総務課に照会します。退職の話を出す前でも確認だけなら普通に聞けます。
- 有給は何日まで繰り越せますか?
-
年休の請求権の時効は2年です(労働基準法115条)。勤続6年6か月を超えると年20日付与になるので、前年度の繰越と合わせて最大40日を持てる計算になります。
- 残った有給は買い取ってもらえますか?
-
退職で結果的に残った分を手当として支払うことは違法ではありませんが、病院の義務ではありません。就業規則に定めが無ければ支払われないので、買い取り前提で待つのは避けてください。
- 有給を取った日の給料はいくらになりますか?
-
平均賃金・通常の賃金・標準報酬日額の3方式から病院が就業規則で定めます(労働基準法39条9項)。通常の賃金方式だと、その日は実際に夜勤をしていないので夜勤手当と深夜割増は付きません。
- 有給20日を消化するには何日必要ですか?
-
有給は勤務日にしか当たらないので、公休を挟んで暦で約1か月かかります。3交代で月の公休が9〜10日、勤務日が20日前後という前提の計算です。
- 退職日にもう合意してしまいました。今からでも間に合いますか?
-
合意したのは退職日で、最終出勤日まで決めた人はほとんどいません。まだ勤務表が組まれていない月があれば、そこから埋められます。全部は入らなくても、入る日数だけ請求してください。
- 有給消化中も社会保険は続きますか?保険証はいつまで使えますか?
-
退職日までは在籍しているので、健康保険も厚生年金も続きます。保険証も退職日まで有効です。保険料は消化中の給与からも引かれるので、手取りは通常の月と同じ感覚で見ておいてください。
- 2交代の場合も有給20日で暦1か月と考えていいですか?
-
2交代は16時間夜勤を2日ぶんの勤務として扱う病院が多く、月の勤務日数が15〜17日に落ちます。必要な暦は3交代より長くなるので、先月の勤務表で自分の勤務日数を数えてから割ってください。
- シフトが組まれた後でも有給を入れられますか?
-
制度上は請求できますが、実際は誰かの休みを動かす話になるので通りにくくなります。次月のシフトは前月10〜15日ごろに固まる病院が多いので、その前に最終出勤日を出してください。
- 年5日の取得義務は退職する人にも関係ありますか?
-
関係あります。年10日以上付与される労働者に5日取得させる義務は使用者側にあり(労働基準法39条7項)、退職予定であることは免除の理由になりません。違反は労働者1人につき30万円以下の罰金です。
- 退職の意思を伝えてから何日で辞められますか?
-
期間の定めのない雇用なら、申し入れの日から2週間で終了します(民法627条1項)。ただし有給を使い切るには残日数ぶんの在籍期間が要るので、日数から逆算して退職日を置いてください。
- 有給消化中に次の職場で働き始めてもいいですか?
-
在籍が重なるので、両方の就業規則の兼業規定を確認してください。社会保険の二重加入や税の手続きも発生するため、入職日は有給消化の終了日より後ろに置くのが無難です。
- 有給消化中に単発のバイトをしてもいいですか?
-
在籍中なので、まず就業規則の兼業規定を確認してください。認められている職場なら、カイテクのような単発アプリを使う人はいます。わたしは退職後の期間に使いました。
- 有給の話は誰にすればいいですか?
-
師長に伝えたうえで、同じ内容を人事課か総務課にも出してください。残日数の管理と付与は労務管理の仕事なので、師長だけと話し続けても日程は動きません。
- 労働基準監督署に相談すると残日数を決めてもらえますか?
-
決めてもらえません。監督署が動くのは労働基準法違反の状態に対してで、個別の日程や日数を裁定する機関ではないです。相談の前に、病院へ文書で請求した記録を残しておいてください。
- 退職代行に有給の交渉まで頼めますか?
-
民間業者は退職の意思を伝えるところまでで、交渉は非弁行為にあたるおそれがあります。日程の交渉まで任せたいなら、弁護士か労働組合が運営する代行を選んでください。
- 看護師は有給が取れない職業なのでしょうか?
-
厚生労働省の令和7年就労条件総合調査では、産業分類「医療,福祉」の取得率は68.4%で、産業全体の66.9%より高い結果でした。落ちやすいのは毎年の分より、辞めるときにまとまって残った分のほうです。
まとめ:退職日から引き算して最終出勤日を置く
有給を守る作業は、交渉ではなく引き算です。紙に退職日を書いて、そこから残日数ぶんを引いてください。
あらためて、この記事の内容をまとめます。
- 退職日と最終出勤日は別の日
- 必要な暦は先月の勤務表で出す
- 残日数は明細か人事で確認
- 次月シフトが固まる前に出す
- 決まった後でも入る分は取る
- いつなら取れますかと聞く
- 年5日は病院側の義務
- 買い取りを待つと全部消える
- 紙に出して人事へも回す
わたしは退職日を2か月ずらされて、そのあいだに次の入職日まで動かしました。有給の話をする土台が、日付が決まった時点で無くなっていたんです。制度を知らなかったからではなくて、日付を先に置かなかったからでした。
今日やることは1つで足ります。紙に退職日を書いて、残日数ぶん左に線を引き、最終出勤日を自分の手で決めてください。次の面談で最初に置くのは、その日付です。
7年ぶんの夜勤の対価が、机の中の残日数として眠っています。使い切って辞めることは、誰かに迷惑をかける行為ではないです。








