退職願を、師長の机の引き出しにしまわれたことはありますか。わたしはあります。
先に大事なところだけ書きます。2回目の引き止めからは、話し合いではなく手続きに切り替えていいです。1回目の慰留はどこの病棟にもあります。でも同じ話が2回3回と繰り返されるのは、あなたの伝え方が下手だからではありません。
わたしはあさこ。急性期の内科外科混合病棟で7年、3交代で月10〜12回の夜勤をしていました。退職を切り出してから3回止められて、希望していた1月末が3月31日付まで2か月ずれました。
この記事には、何回目からどう押し返すのか、そのとき出す紙はどれか、面談でそのまま言える言葉、脅し文句への答え、それでも動かないときの順番を置きます。2か月延ばして何を失ったかも隠さずに書きます。
看護師の退職でしつこい引き止めが続くときの見極め方
まず、いま何回目なのかを数えてください。回数によって、打つ手がまるごと変わります。
順番に見ていきます。
1回目の慰留はどこも普通
最初の面談で引き止められたこと自体は、異常ではありません。師長の側にも事情があります。病棟の人員配置は看護必要度と入院基本料に直結していて、1人抜けるだけで夜勤の組み方が崩れます。次年度の採用計画も、たいてい秋には固まっています。
だから1回目は「考え直してくれないか」で終わるのが普通です。ここで反論を用意して身構える必要はありません。むしろ強く出ると、相手も引くに引けなくなります。
ただし、1回目でも必ず口に出しておいてほしい数字が2つあります。退職希望日と、最終出勤日です。ここを言わずに「近いうちに」で終えると、次の面談で相手が日付を持ってきます。日付を先に置いた人が、その後の話の主導権を持ちます。
わたしは1回目の面談で「年内で考えています」としか言えませんでした。日付を言葉にできなかった時点で、もう相手のペースに入っていました。
2回目から段階が変わる
2回目の面談で確かめるのは1点だけです。話のテーマが「辞めるかどうか」から「いつ辞めるか」に移っているかどうか。移っていれば交渉、移っていなければ引き延ばしです。
ここで条件が出てくることがあります。夜勤を減らす、日勤の部署へ動かす、来年度は委員会を外す。どれも悪い話ではありません。でも条件は、数字と開始月がそろって初めて条件です。
「夜勤を減らす」なら月何回になるのか、いつのシフトから反映されるのか、シフトを組む人まで話が通っているのか。この3つが埋まらない提案は、口約束のまま消えます。埋まったなら、その場で紙にしてもらってください。
数字が出ないまま2回目が終わったら、次からは話し合いを続けても進みません。書面に切り替える段階に入っています。
あさこ数字の入らない約束は、条件ではなく引き延ばしです
3回目は相手が上に出る
3回目になると、面談に看護部長や事務長、人事が入ってきます。これは説得の内容が強くなったのではなく、断りにくい配置に変わっただけです。人数が増えるほど、その場で結論を出させられます。
同席者が増えた面談でやることは決まっています。その場で日付を決めない。これだけです。「持ち帰って、書面でお返事します」で切り上げてください。
その場で口頭の合意をしてしまうと、あとから覆すのに倍の労力がかかります。わたしがまさにそれをやって、2か月を失いました。
押し返していい合図
迷ったときの目安を置いておきます。次のどれかが起きていたら、話し合いの段階はもう終わっています。
- 同じ話が2回以上出た
- 条件に数字が入らない
- 退職日を先へずらされた
- 面談の同席者が増えた
- 書面を受け取ってもらえない
1つでも当てはまるなら、あなたが冷たいのでも、わがままなのでもありません。手続きに進んでいい合図です。
あと、押し返す前に体のほうが限界という人もいます。朝に起き上がれない、涙が勝手に出る、夜勤前に吐き気が出る。そういう段階なら、辞める交渉より先に休むほうが早いです。進め方は看護師が適応障害かもしれないときの休職の進め方にまとめてあるので、そちらから見てください。
わたしが3回止められて退職が2か月延びた話
ここからは自分の話です。うまくやれた話ではなく、全部折れた側の記録です。
時系列で書きます。
引き出しに入れられた紙
6年目の冬でした。深夜勤の途中、輸液の準備をしながら意識が遠のいて、ラベルの文字が一瞬読めなくなった夜があります。先輩に「大丈夫?」と声をかけられて我に返って、帰り道にコンビニの前で立ち尽くしました。入る気力も、家に帰る気力もありませんでした。
その週の休みに退職願を書きました。パソコンで打って、コンビニで印刷して、封筒に入れて。就業規則には「退職しようとする日の1か月前までに退職願を提出すること」と書いてあったので、1月末で辞めるつもりで、12月のうちに出そうと決めました。
面談室で封筒を出したとき、師長は中を見ませんでした。表の宛名だけ見て、「あさこさん、疲れてるだけだと思うよ」と言って、机の引き出しを開けてそこに入れたんです。引き出しが閉まる音を今でも覚えています。カチャッという乾いた音でした。
そのとき、わたしは「返してください」が言えませんでした。頭の中では言っているのに、口から出たのは「はい、少し考えます」でした。面談室を出て階段の踊り場で、なんで持って帰らなかったんだろう、とぐるぐる考えました。手のひらが冷たくて、指先だけ震えていました。
あの日、あの紙は受け取られていません。でも当時のわたしは、受け取ってもらえないと辞められないと思い込んでいました。そこが最初の間違いでした。
数字の出ない夜勤を減らす
2回目の面談は年明けでした。師長は前より柔らかくて、「夜勤、減らすから」と言ってくれました。正直、その一言でぐらつきました。7年間、誰にも「減らす」と言われたことがなかったからです。
「何回になりますか」と聞きました。返ってきたのは「今より楽になるようにするから」でした。もう一度、「4月からのシフトで何回ですか」と聞きました。「そこは主任とも相談してね」。
結局、月の夜勤回数の数字は最後まで一度も出てきませんでした。それなのにわたしは、その面談を「前向きな話し合い」だったと自分に説明していました。数字のない好意は、あとから何にでも化けます。優しくされたぶん、断りにくくなっただけでした。
この面談のあと、わたしは1月末という希望日を自分から言わなくなりました。相手が譲ってくれている気がして、こちらも譲らないといけない気がしたんです。誰にも頼まれていないのに。



優しくされると断れなくなる。そこまで含めて引き止めです
看護部長が座った3回目
3回目は1月の後半でした。面談室に入ったら、師長の隣に看護部長が座っていました。「聞いてるわよ」から始まって、話は15分もかからなかったと思います。
言われたのは3つです。年度の途中で抜けると病棟の体制が組めないこと。4月に新人が入るので、その前に辞めるのは後輩に厳しいこと。そして、「年度末までなら気持ちよく送り出せる」ということ。
気持ちよく送り出せる。この言葉が効きました。裏を返せば、1月末で辞めたら気持ちよく送り出さない、と言われているのと同じなんですよね。当時は気づかず、「わかりました、3月末で」と自分の口で言いました。誰にも強制されていない形で、わたしが2か月を差し出しました。
面談室を出たあと、廊下の窓のところでしばらく立っていました。ほっとしていたんです。決まったから。あのとき安心してしまった自分のことが、今もいちばん納得できていません。
延びた2か月が奪ったもの
ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。2か月延びて失ったのは、2か月ぶんの時間だけではありませんでした。
次の職場は2月入職の予定でした。3月末まで辞められないと決まった時点で、先方に入職日をずらしてもらう連絡を入れることになります。エージェントの担当者に電話して、病院にも頭を下げてもらって、4月入職に変えてもらいました。
そこから、わたしは条件の確認ができなくなりました。迷惑をかけた側になった瞬間、聞きたいことが聞けなくなるんです。「夜勤少なめと聞いていますが、月に何回ですか」。この一言が、どうしても言えませんでした。これ以上わがままだと思われたくなかった。
入職してみたら夜勤は8〜10回で、前の病棟とほとんど変わりませんでした。年収は20万上がりましたが、体は同じでした。その職場は1年で辞めています。1回目の転職を失敗させた原因は、エージェント1社しか見なかったことと、この確認をしなかったことの2つです。
引き止めに折れることの本当の代償は、次の職場の選び方が雑になることでした。同じ失敗の手前にいる人は看護師の転職失敗パターンとわたしが1回目で後悔した話も先に読んでおいてください。順番を間違えたくない人は転職先が決まってから退職した看護師の実体験のほうが近いです。
あと、同期には最後まで自分から言えませんでした。伝えたとき「おめでとう」は言われませんでした。今もLINEは続いていますが、夜勤の愚痴にどう返せばいいのか分からなくて、ごはんの誘いを2回流してしまっています。
面談で押し返すより、紙を1枚出すほうが早いです
話し方を工夫しても、相手が受け取る気がないなら進みません。局面を変えるのは言葉ではなく書面です。
それぞれ詳しく見ていきます。
退職願と退職届は別物
同じような紙に見えて、役割が違います。退職願は「辞めさせてください」というお願い、つまり合意して辞めるための申し込みです。相手が承諾するまでは宙に浮きます。引き出しにしまわれても、形のうえでは「まだ返事をしていない」で通ってしまいます。
退職届は「辞めます」という通告です。相手の承諾を待つ紙ではありません。しつこい引き止めの局面で効くのはこちらです。題名を変えるだけでなく、本文も「退職いたしたく、お願い申し上げます」ではなく「退職いたします」と言い切る形にしてください。
根拠になるのが民法627条1項で、期間の定めのない雇用は当事者がいつでも解約を申し入れることができ、申し入れの日から2週間で終了すると決まっています。同じ条文の2項には報酬の支払い期を基準にした制限がありますが、2020年4月に施行された改正で、これは使用者からの解約の申し入れに限ると明記されました。月給制だから月末まで動けない、という説明は今の条文とかみ合っていません。
就業規則の「1か月前まで」はどうなるのか、という話が必ず出ます。院内の運用ルールとしては有効でも、民法の2週間を超えて労働者を縛る効力まではないと考えられています。ただ実務では、就業規則の期限に沿ったほうが揉めません。喧嘩をしに行くのではなく、期限を守ったうえで日付を動かさない、が現実的です。
ちなみに契約期間が決まっている働き方(有期契約)は別の条文で動きます。やむを得ない事由があるときは民法628条で契約途中でも解除でき、1年を超える契約なら労働基準法137条で、初日から1年を過ぎたあとはいつでも辞められます。自分の雇用契約書がどちらなのかを先に見てください。
もう1つ、当てはまる人は先に知っておいてほしい例外があります。県立や市立の病院の正職員(地方公務員)は、この2週間の話がそのまま当てはまりません。民法ではなく地方公務員法と自治体の条例・規則で動くので、退職願を出して任命権者の承認、つまり退職の発令を受ける手続きになります。
とはいえ、承認をいつまでも出さずに引き延ばしていいわけでもありません。公務員の看護師で話が止まっているなら、看護部の中で粘るより、自治体の人事担当課や職員団体に直接聞くほうが早いです。地方独立行政法人になった病院や日赤、済生会、私立病院に勤めている人は労働契約なので、上に書いた民法の話に戻ります。
退職日は自分で書く
退職届に空欄を作らないでください。日付を空けて出すと、そこは必ず相手が埋めます。わたしのように年度末まで引っ張られるのは、たいていこの空欄から始まります。
日付を決めるときは、有給の残日数から逆算します。残20日なら、最終出勤日の翌日から20日ぶんを足した先が退職日になります。有給は会社に時季変更権がありますが、退職日を越えて別の日に振り替えることはできません(労働基準法39条5項ただし書き)。だから退職日を先に決めてしまえば、消化できる日数はほぼ守れます。
次の職場の入職日が決まっている人は、そこから2週間ぶんの余白を残して逆算してください。入職日をずらす相談は、たった1回でも次の交渉力を削ります。わたしがそれで失敗しました。
書き方は難しく考えなくて大丈夫です。理由を細かく書く必要はありません。今夜のうちに1枚つくるなら、この形で足ります。
- 白い無地のA4かB5用紙1枚
- 1行目に「退職届」と書く
- 本文は「一身上の都合により」
- 「令和◯年◯月◯日をもって退職いたします」
- 提出日・所属・氏名を入れる
- 宛名は病院の代表者名にする
手書きでもパソコンでもかまいません。氏名の下の押印は今は必須ではないですが、押しておくと突き返されにくいです。宛名は師長ではなく院長名や理事長名にしてください。師長あてにすると、師長のところで止まったときに「上には出していない」と言われます。
白い封筒に入れて、表に「退職届」、裏に所属と氏名。三つ折りにして入れるだけです。わたしはこれをコンビニのプリンターでつくりました。特別な用紙も、書店で買う便箋もいりません。
誰にどう渡すか
まっすぐ上の上司、病棟なら師長に渡すのが基本です。順番を飛ばすと、それ自体を理由に話が止められます。渡す前にコピーかスマホの写真を必ず残してください。
渡したあとにやることが1つあります。その日のうちにメモを残すことです。日付、時間、場所、同席者、言われた言葉。スマホのメモで十分です。あとで「聞いていない」が始まったときに、これがあるかないかで話の重さが変わります。
師長のところで止まったら、次は看護部長、そのあと人事や総務です。同じ内容の書面をそのまま出します。ここで内容を書き換えないでください。日付が動くと、相手はそこを突いてきます。
受け取らないと言われたら
ここが最大の思い込みポイントです。受け取ってもらえないと辞められない、というのは間違いです。意思表示は相手に届いた時点で効力が出ます(民法97条1項)。受領を拒まれても、届いた事実さえ残れば足ります。
だから使うのが内容証明郵便です。同じ文面を郵便局が保管してくれるので、何をいつ出したかが残ります。配達証明を付ければ、いつ届いたかも記録に残ります。費用は1通あたり1,500円前後で、郵便局の窓口で出せます。
宛先は師長個人ではなく、病院の代表者あてにします。院長名または理事長名、住所は病院の所在地です。ここを間違えると、届いた相手が違うと言われかねません。
郵送に踏み切るのは、書面を2回突き返されたあとでいいと思います。1回目は行き違いのこともあるので、そこまでは手渡しで粘って大丈夫です。
次の面談でそのまま使える返し方5つ
言葉に詰まるのは、あなたの性格のせいではありません。用意がないだけです。そのまま口に出せる形で置いておきます。
順番に説明していきます。
条件を出されたとき
いちばん揺れる場面です。断ってはいけないと思う必要はなくて、受けるかどうかを決める前に数字を出してもらえばいいだけです。
「ありがたいです。判断したいので、来月からの夜勤が月何回になるか、書面でいただけますか」。これで十分です。感謝を先に置くと角が立ちません。
条件を受けるかどうかを判断するときに見るのは、この4つです。
- 月の夜勤回数の数字が出たか
- いつのシフトから変わるか
- シフトを組む人に話が通ったか
- 紙かメールで残っているか
4つそろえば、残る選択肢として考える価値があります。1つでも欠けたまま「わかりました」と言うと、4月には元のシフトに戻っています。
人手不足を盾にされたら
「今抜けられると回らない」は、たいていの病棟で本当のことです。だから否定しなくていいです。否定すると議論になって、議論になると長引きます。
「大変なのは分かっています。そのうえで、退職日は◯月◯日で変わりません。引き継ぎの範囲を決めさせてください」。人員配置は師長の仕事で、あなたの仕事ではありません。ここを引き受けないことが線引きになります。
引き継ぎに前向きな姿勢を見せるのは有効です。相手が本当に困っているのは業務の穴なので、そこに答えると話が短くなります。
無責任と言われたとき
これを言われると刺さります。看護師になった人ほど、責任という言葉に弱いからです。わたしも「後輩が育つまで」と言われて黙りました。
返し方はシンプルでいいです。「無責任だと思われるのはつらいですが、体調を崩したまま患者さんの前に立つほうが怖いです」。事実を1つ足すだけで、感情の話が事実の話に戻ります。
言い返せなくても構いません。黙ったまま次の面談で書面を出せば、結果は同じです。その場で勝つ必要はどこにもありません。
もう少し考えてへの返し
この一言だけで、面談は何回でも増やせます。終わりの日を決めないかぎり、来月も同じ言葉が出ます。
「考えた結果が今日お伝えした内容です。◯月◯日までにお返事をいただけますか」。相手に締め切りを渡すのがポイントです。日付のない依頼は、日付のない返事しか返ってきません。
その期日を過ぎたら、書面を上に出す段階だと自分の中で決めておいてください。先に決めておくと、当日に迷いません。
退職日をずらされそうなら
年度末まで、後輩が独り立ちするまで、産休の人が戻るまで。理由はいくらでも作れます。応じた瞬間、次の理由が用意されます。
「次の職場の入職日が決まっているので、◯月◯日以降は動かせません」。次が決まっていない人は「治療の予定が入っているので動かせません」でも構いません。理由を1つ持っていると、断るときの声が震えなくなります。
ここで折れると、失うのは日付ではありません。次の職場に条件を確認する権利のほうです。わたしはそれを渡してしまいました。
失うものは、もう1つあります。退職日が後ろへずれるほど、有給を振り替える先の勤務日が病院側に増えていきます。日付と有給が連動している仕組みは有給消化させてもらえないまま辞めないための逆算のほうに分けて書きました。
すでに内定が出ていて返事を待たせている人は、待たせたまま黙るのがいちばん危ないです。「現職の退職日を◯月◯日で調整中です。◯日までに確定してご連絡します」と、期限を切って先に伝えてください。転職先の人事も、連絡がない期間だけを不安に思っています。
入職日そのものをずらす相談は、できるだけ最後の手段にしてください。わたしは一度ずらしてもらったせいで、聞くべきことを聞けない立場になりました。



日付を動かした人から、次の職場選びが雑になります
脅し文句4つに根拠はありません
ここまで来ると、言い方が変わってきます。怖い言葉が出てきたら、むしろ相手に手札がなくなった合図です。
1つずつ解体していきます。
損害賠償を請求すると言われた
労働基準法16条で、労働契約に違約金や損害賠償の額をあらかじめ決めておくことは禁じられています。「途中で辞めたら◯十万円」という取り決めは、最初から効きません。
実損害が出た場合に請求そのものが理論上ありえないわけではありませんが、規定どおりに手続きを踏んで退職した人に認められた例は、まず聞きません。引き継ぎを投げ出して無断で来なくなった、といった極端なケースの話です。
言われたときは、その場で反論しなくて大丈夫です。誰にいつどう言われたかをメモに残してください。脅し文句は、記録に残った時点で相手の側のリスクになります。
懲戒解雇にすると脅された
退職を申し出ることは、懲戒の理由になりません。懲戒解雇は就業規則に定めた重大な非違行為に対して、相当性が認められる場合にだけ成立します。辞めたいと言っただけの人が該当することはありません。
気をつけたいのは、腹が立って無断欠勤を続けてしまう場合です。ここは相手に材料を渡してしまいます。退職日までは普通に出勤して、休むなら有給か欠勤の届けを出してください。
言い返さなくていいので、退職届の日付だけ守ってください。手続きが正しければ、脅しは形になりません。
離職票は出さないと匂わされた
離職票は病院が好意で出す書類ではありません。雇用保険の資格喪失の手続きは事業主が行うもので、離職証明書を添えてハローワークに提出します。本人が交付を希望した場合、事業主はこれに応じる必要があります。
手元に届かないときは、退職した病院の所在地を管轄するハローワークに相談してください。事業主への確認や働きかけをしてもらえます。次の職場がすぐ決まっている人は使わない書類ですが、少し休むつもりなら失業給付に必要です。
源泉徴収票や雇用保険被保険者証も同じで、渡さない自由はありません。退職前に、受け取る書類の名前を紙に書き出しておくと安心です。
免許に傷がつくという話
看護師免許の欠格事由は保健師助産師看護師法9条に書かれていて、罰金以上の刑に処せられた人や、看護業務に関して犯罪や不正行為があった人などが対象です。退職の経緯とは何の関係もありません。
「この辞め方だと他の病院でもやっていけない」も同じです。看護師の退職歴が業界内で共有される仕組みはありません。中途採用で見られるのは在職期間と経験内容で、辞め方の評判ではないです。
この言葉が出たら、相手は事実ではなく怖さで止めにきています。事実で止められないところまで来ている、という意味でもあります。
それでも辞められないときの4手
書面を出しても止まったままなら、相手を変えます。同じ人に何度お願いしても結果は変わりません。
上から順に試す形です。
内容証明と配達証明で出す
手渡しが2回通らなかったら、郵送に切り替えます。内容証明で「何を出したか」、配達証明で「いつ届いたか」の両方を残すのがポイントです。片方だけだと、届いていないと言われたときに詰まります。
文面は退職届と同じで構いません。「一身上の都合により、令和◯年◯月◯日をもって退職いたします」。余計な経緯や不満を書き足さないでください。書くほど反論の余地が増えます。
出したあとは、控えと郵便局の受領証をまとめて保管しておきます。ここまでやれば、あとから日付を動かされることはまずありません。
人事か総務に直接届ける
看護部の中で止まっている場合、法人の人事部門はその状況を知らないことがあります。師長も看護部長も、辞められると自分の評価に響く立場なので、上に上げたがりません。
人事に出すときは、感情ではなく事実だけ書いてください。いつ退職届を出したか、いつ面談があったか、返答がないこと、希望する退職日。これで動くことが多いです。
病院によっては窓口が総務や事務局になります。組織図が分からなければ、給与明細の発行元を見ると当たりがつきます。
総合労働相談コーナー
ここは誤解が多いところです。労働基準監督署は労働基準法違反を取り締まる役所なので、退職させてもらえないという相談だけでは動きにくいのが現実です。退職を認めるかどうかは労働者と病院の民事のやり取りだからです。
代わりに使えるのが、都道府県労働局の総合労働相談コーナーです。個別労働関係紛争解決促進法にもとづいて、労働局長の助言指導や、紛争調整委員会のあっせんを求められます。相談は無料で、労働基準監督署の中に窓口が置かれていることもあります。
ただし、未払い残業代や有給を取らせないといった労基法違反が絡むなら、そこは労働基準監督署の管轄です。退職妨害と一緒に起きているなら、両方の窓口に話しておいてください。
退職代行を使う判断
最後の手段です。使うかどうかの線引きは、あなたが病院と話せる状態かどうかだと思っています。書面を出しても面談が繰り返される、出勤するだけで動悸がする、そういう段階なら十分に理由になります。
気をつけたいのは、業者によってできる範囲が違うところです。民間の業者は本人の意思を伝えるだけで、有給の日数や退職日の交渉まではできません。交渉が必要なら労働組合か弁護士が入る形になります。
費用の相場や、看護師が使うときの注意点は看護師の退職代行は使えるのかを退職2回のわたしが調べた記事にまとめてあります。急いでいる人は先にそちらを見てください。
引き止めに折れる人は逃げ場の数字を持っていません
3回止められて全部飲んだ人間として、いちばん言いたいのはここです。わたしが折れたのは、気が弱いからではありませんでした。辞めたあとの生活が数字になっていなかったからです。
あのとき、自分の地域に日勤のみの求人が何件あるのか、そこの基本給がいくらなのか、夜勤手当が消えたら手取りがどれだけ減るのか、1つも知りませんでした。知らないから「年度末まで」と言われたときに、比べる相手がなかったんです。
逆に、次の入職日と月給の数字を持っている人は強いです。「◯月◯日から次が決まっています」と言えるだけで、面談は1回で終わります。転職する気が固まっていなくても、数字だけ先に持っておく価値があります。
わたしが2回目の転職で使ったのはMCナースネットでした。まず派遣で日勤の職場に入ってみて、合うと確信してから、同じ担当の紹介で正社員に切り替えています。年収の交渉まで担当がやってくれて、370万から430万になりました。1回目のときに大手1社しか見なかった反省から、ジストリーにも登録して相場を見比べています。
今日の面談を乗り切るために登録しろ、という話ではありません。求人の件数と給与のレンジを見るだけで、次の面談で言える言葉が変わります。MCナースネットで自分の地域の日勤求人を見てみるところから始めても遅くないです。
担当との相性や、派遣から紹介に切り替えるときの流れはMCナースネットの評判を使ったわたしが正直に書いた記事のほうに細かく置いてあります。
そもそも師長の前に座るところまで進めていない人も多いと思います。切り出す場面の作り方と第一声のほうは、辞めたいと言えないまま止まっている人向けの記事に分けて書きました。
看護師の退職と引き止めでよくある質問
面談の前に聞かれることが多いところをまとめました。
- 退職の意思を伝えてから何日で辞められますか?
-
期間の定めのない雇用なら、申し入れの日から2週間で終了します(民法627条1項)。就業規則に1か月前と書いてあっても、民法の2週間を超えて縛る効力はないと考えられています。
- 退職願を返してもらえません。どうすればいいですか?
-
返してもらう必要はありません。あらためて退職届を作り、日付を自分で書いて出し直してください。それでも受け取られないなら内容証明で郵送します。
- 退職届を受け取ってもらえなくても辞められますか?
-
辞められます。意思表示は相手に到達した時点で効力を生じます(民法97条1項)。受領を拒まれても、届いた記録が残っていれば足ります。
- 師長が看護部長に話を上げてくれません
-
同じ書面を看護部長、人事や総務の順に直接出してください。順番を飛ばしたと言われないよう、師長に出した日付を書き添えると進みやすいです。
- 年度末までと言われました。従う必要はありますか?
-
従う義務はありません。病院の年度は運営上の区切りで、退職日を決める法的な根拠ではないです。次の入職日など動かせない理由を1つ用意して伝えてください。
- 有給を全部使ってから辞められますか?
-
退職日を先に決めて、そこから逆算すれば消化できます。会社の時季変更権は、退職日を越えて別の日に振り替えることまではできません(労働基準法39条5項ただし書き)。
- 辞めたら損害賠償を請求すると言われました
-
違約金や賠償額をあらかじめ決めておくことは労働基準法16条で禁じられています。手続きを踏んで辞めた人が請求されて認められる例は、まず聞きません。
- 奨学金の返済が残っていても辞められますか?
-
辞められます。ただしお礼奉公の年限を満たさない場合、貸与された金額の一括返還を求められることが多いです。契約書で返還条件と残額を先に確認してください。
- パートや契約社員でも同じように辞められますか?
-
契約期間の定めがあるかで変わります。やむを得ない事由があれば民法628条で途中解除ができ、1年を超える契約なら初日から1年経過後はいつでも退職できます(労働基準法137条)。
- 公立病院の看護師でも2週間で辞められますか?
-
地方公務員の正職員は民法ではなく地方公務員法と条例で動くので、任命権者の承認を受ける手続きになります。看護部で止まっているなら、自治体の人事担当課に直接相談してください。
- 退職届は手書きでないとだめですか?
-
パソコンで作って印刷したもので問題ありません。押印も今は必須ではないです。宛名を師長ではなく院長名や理事長名にしておくほうが、途中で止められにくくなります。
- 労働基準監督署に相談すれば辞めさせてくれますか?
-
退職させてもらえないという相談だけでは動きにくいです。都道府県労働局の総合労働相談コーナーで、助言指導やあっせんを求めるほうが筋に合います。
- 引き止めで条件を良くしてもらったら残るべきですか?
-
月の夜勤回数、反映される月、シフト作成者への共有、書面の4つがそろっているなら検討する価値があります。1つでも欠けるなら口約束として扱ってください。
- 退職を伝えるのは何か月前がいいですか?
-
就業規則の期限に1か月ほど上乗せした時期が動きやすいです。早すぎると引き止めの面談の回数が増えるので、次の入職日が決まってから伝えるのをおすすめします。
まとめ:しつこい引き止めは紙と日付で終わります
話し合いで勝とうとするから長引きます。勝たなくていいので、日付を書いた紙を1枚出してください。
あらためて、この記事の内容をまとめます。
- 1回目の慰留はどこも普通
- 2回目からは書面に切り替える
- 願ではなく届を出す
- 退職日は自分で書いて渡す
- 受け取り拒否でも辞められる
- 脅し文句4つに根拠はない
- 止まったら人事と労働局へ
わたしは3回全部に折れて、2か月を差し出しました。失ったのは時間より、次の職場に「夜勤は月に何回ですか」と聞く権利のほうでした。あの一言を聞けなかったせいで、転職を1回まるごと無駄にしています。
今日やることは1つで大丈夫です。退職届を1枚つくって、退職日の欄を自分の手で埋めてください。次の面談で最初に置くのは、その日付です。
引き止められるのは、あなたが必要とされている証拠でもあります。それでも、あなたの体と時間の使い道を決めていいのは、師長ではなくてあなたです。








