もう辞めると決めているのに、師長に言うところだけが何週間も動かないままになっていませんか。
先に、この記事でいちばん伝えたいことを書きます。言えない理由は勇気ではなく、言う場面と第一声と、折れないための準備が決まっていないことです。この3つが埋まると、話す時間そのものは1分もかかりません。
わたしはあさこ。急性期の内科外科混合病棟で7年、3交代で月10〜12回の夜勤をしていました。6年目の秋の面談で夜勤を減らしてほしいと言おうとして、口から出たのは「来年度も病棟で頑張ります」です。冬にやっと退職願を出したあとは、引き止めに3回とも折れて、退職日が2か月うしろへ動きました。
だからこの記事は、言えなかった側と、言ったあとに負けた側の両方から書きます。ここに置くのは、切り出す日をシフトから逆算する方法、師長の時間を5分もらう頼み方、そのまま口に出せる第一声、引き止めが来る前に済ませておく準備です。
言えない自分を責めている人ほど先に読んでほしいところがあります。言えないことより高くつくのは、言ったあとに折れることです。わたしの2か月は、そのまま次の転職の失敗につながりました。
言えないまま今夜を終わらせないための順番
気持ちを整えてから話そうとすると、いつまでも順番が来ません。先に日付と場所と言葉を決めて、そこへ自分を運ぶほうが早いです。
順番に見ていきます。
先に決めるのは3つの数字
話す前に紙に書くのは、気持ちではなく数字です。退職希望日、最終出勤日、そして理由を言う一文。この3つが埋まっていない状態で師長の前に立つと、相手が出してきた日付に乗るしかなくなります。
退職希望日は、就業規則の提出期限から逆算します。わたしの病棟は「退職しようとする日の1か月前までに退職願を提出すること」でした。病院によって1か月前だったり2か月前だったりするので、自分の就業規則をイントラか総務で先に開いてください。
そのうえで、日付は3つの締切を並べて決めます。就業規則の提出期限、次の入職日、そして自分が耐えられる限界の月です。3つ目を入れないと、紙の上では整っていても持たない日程になります。
3つが噛み合わないときは、動かせないものから先に固定してください。次が決まっている人はその入職日が軸になります。決まっていない人は耐えられる限界の月を先に置いて、そこから就業規則の期限を逆算するほうが崩れません。
最終出勤日は退職日と別の日として置きます。退職日は雇用契約が終わる日、最終出勤日は最後に病棟に立つ日で、同じ日にしなければいけない決まりはないです。ここを分けておかないと有給の残りが丸ごと消えるので、詳しくは退職日と最終出勤日を分けて有給を守る話のほうに書きました。
理由の一文は、あとで詳しく書きます。ここでは「言い切れる長さに収まっているか」だけ見ておいてください。紙に書いて3行を超えるなら、まだ迷いが混ざっています。
言う日はシフトから逆算
切り出す日は、気持ちが整った日ではなく、勤務表が固まる前の日です。次月のシフトが組まれてしまうと、退職の話が「来月どうするか」ではなく「再来月どうするか」に自動的にずれます。
多くの病棟で、翌月のシフトは前月の中ごろに形になります。希望休の締切がその少し前にあるはずなので、自分の病棟の締切日をカレンダーに置いてみてください。その日より前に話せているかどうかで、1か月まるごと変わります。
時間帯も選べます。避けたいのは日勤の申し送り前後と、師長が会議から戻った直後です。狙い目は日勤帯の午後で、病棟が少し落ち着いていて、師長が事務作業をしている時間になります。
夜勤明けに話すのはやめておいたほうがいいです。判断力が落ちているのは自分のほうで、引き止められたときに考える力が残っていません。わたしが3回とも折れたときの1回目も、夜勤が続いた週でした。
場所は師長が座る場所
立ち話では終わりません。人が通る場所で切り出すと、相手は必ず「あとでゆっくり聞くね」と言い、その「あとで」は来ないか、来ても2週間後です。
師長室、面談室、空いているカンファレンスルーム。座って向き合える場所を先に確保してから声をかけてください。相手が座ると、話は聞くモードに切り替わります。
ナースステーションの端で話すのがいちばん危ないです。声が届く範囲に同僚がいる状態だと、師長は答えを濁しますし、こちらも本題を薄めます。病棟の人間関係を心配する気持ちがそのまま言葉を鈍らせます。
あさこ座れる場所を先に取ってから、声をかけてください
第一声は10秒で終わる
長く話そうとするほど言えなくなります。最初のひとことは10秒で終わる長さにして、そこから先は相手の反応に任せてください。
形はこれで足ります。「お時間5分いただけますか。退職のご相談ではなく、お伝えしたいことがあります」。ここまでで用件が伝わっているので、あとは日付を出すだけになります。
言葉に詰まるのが怖い人は、紙を持っていってください。読み上げてもいいです。震える声で読み上げるほうが、うまく話そうとして言葉を失うより百倍うまくいきます。
その場で返事をしない
いちばん大事なのがここです。師長は必ず何かを提案してきますが、その場で答える必要はありません。
持ち帰る言い方を1つだけ用意しておいてください。「ありがとうございます。日付だけ先に決めさせてください」で十分です。これを言えると、条件の話と日付の話が分離します。
持ち帰るときは、その場で次に話す日まで決めてください。「では来週の同じ曜日にもう一度お時間ください」まで言い切ると宙に浮きません。ここを空けて帰ると、次の面談は相手のタイミングで設定されます。
持ち帰った1週間ですることは1つだけです。相手が出してきた条件に数字が入っていたかを確かめる。入っていなければ、次の面談はまた日付の話から始めるだけになります。
切り出す前に持っておくものを並べると、こうなります。
- 退職希望日を書いた紙
- 最終出勤日の候補
- 理由の一文(3行以内)
- 持ち帰る用の返し1つ
- 就業規則の該当ページ
この5つが揃っていれば、その日の面談は失敗しません。決まらなくても、次の面談の土俵をこちらに寄せられます。
看護師が師長に辞めたいと言えない3つの正体
「言えない」とひとことで書かれることが多いですが、中身は3種類あって、効く手当てがそれぞれ違います。
一つずつ見ていきましょう。
場面が作れないタイプ
気持ちは固まっていて、言葉も用意できている。それでも師長がいつも走り回っていて、声をかける瞬間が来ないまま1か月が過ぎるパターンです。
このタイプは、自分を責める必要がまったくないです。悪いのは意思の弱さではなく、面談の機会を待つ設計にしていることのほうにあります。師長の予定は永遠に空きません。
手当ては1つで、こちらから枠を取ることです。声をかけるのではなく、時間をもらう。「明日の午後、5分だけお時間ください」と先に予約してしまえば、切り出す場面は自動的に発生します。
もう一段ハードルを下げるなら、口頭でなくてもかまいません。勤務表の裏でも付箋でも、5分ほしいと書いて渡せば枠は取れます。中身を書く必要はないです。
言葉が見つからないタイプ
場面はある。師長も座ってくれた。それなのに、何を理由として言えばいいのかが最後まで決まらないパターンです。わたしの秋の面談はこれでした。
このタイプの人は、たいてい理由を大きく作りすぎています。人手不足の病棟で辞める以上、相手を納得させるだけの正当な理由が要ると思っている。だから「体がしんどい」では足りない気がして、言葉を探しているうちに面談が終わります。
実際には、相手を納得させる義務はありません。期間の定めのない雇用契約は、申し入れた日から2週間で終わります(民法627条1項)。理由の良し悪しは、契約が終わるかどうかにまったく関係していないです。
手当ては、理由を1つに絞って短くすること。長い理由は説得の材料ではなく、反論の的になります。
折れるのが怖いタイプ
いちばん多くて、いちばん本人が口にしないのがこれです。師長が怖いのではなくて、引き止められたときに「はい」と言ってしまう自分が怖い。
この怖さには根拠があります。一度言って残ることになると、次に切り出すのは前より難しくなるからです。周りは知っているのに辞めていない状態が続くと、病棟での立ち位置まで変わります。
だから、このタイプの人が先にやるべきなのは言葉の練習ではないです。折れる場面を具体的に想像して、そこで自分が何を持っていれば折れずに済むかを埋めておくこと。準備の話は面談の前に終わらせておく準備のところに書きました。
わたしは折れました。3回とも折れて、最後は自分の口から「3月末で」と言っています。だからこのタイプの怖さは、大げさでも思い込みでもないと断言できます。
自分がどれかの見分け方
判定はかんたんで、頭の中で面談を再生してみるだけです。どこで止まるかを見ます。
- 声をかける前で止まる→場面型
- 座ったあとで止まる→言葉型
- 返事のあとで止まる→折れる型
混ざっている人もいます。その場合は後ろのほうを先に埋めてください。折れる準備ができていると、言葉も場面も勝手に軽くなります。
ちなみに1年目や2年目で辞めたい人は、この3つに入る前の段階にいることが多いです。辞めるかどうかの迷いがまだ残っているなら、1年目で辞めたいと思ったときの話のほうを先に読んでもらうほうが早いと思います。
切り出す場面は年2回の面談を待たなくていい
面談の予定を待つのは、いちばん安全に見えていちばん時間を失う選び方です。待った先に何が起きるかを書きます。
それぞれ詳しく見ていきます。
待つと年度をまたぐ
わたしの病棟の面談は年2回、秋と年度末でした。この間隔で待つと、秋に言えなかった時点で次の機会は年度末になります。
年度末の面談で辞めると言っても、その年度はもう終わっています。つまり実際に辞められるのは次の年度の途中か、下手をするともう1年先です。秋に言えないと1年動かないという構造になっているわけです。
わたしはその1年を丸ごと使いました。6年目の秋に言えず、限界が来たのが同じ年の冬で、実際に病棟を出たのは7年目の3月末です。面談の枠を待った時間のぶんだけ、夜勤の回数が積み上がりました。
病院によっては面談が年1回だったり、師長との個人面談そのものが無かったりします。回数が少ないところほど、待つ意味は薄いです。
面談は評価と配置のための場で、退職を切り出すための場ではないです。別の枠として取ってください。
希望調査の紙は罠になる
秋になると、来年度の配属希望を書く紙が回ってきます。あそこに「継続」と書いた時点で、翌年度の人員計画に自分が入ります。
書いた紙は撤回できますし、あれは契約でもないです。ただ、師長の側は紙をもとに人数を組んでいるので、あとから抜けると「聞いていない」という空気が生まれます。折れやすい人にとっては、この空気がそのまま重しになります。
紙が回ってきた週は、切り出すタイミングとしてはむしろ良いです。「この紙のことでお時間ください」と言えば、用件を説明しなくても枠が取れます。理由を先に言わずに座れる数少ない機会になります。
院内の日勤部署への異動希望も、同じ紙で出せる病院が多いです。わたしは一度も出さないまま辞めました。試さなかった選択肢として、今も少し引っかかっています。
五分ください、で足りる
枠を取る言葉は短いほど通ります。「ご相談したいことがあって」と言うと、相手は内容を推測して身構えます。
使えるのはこのあたりです。「今週のどこかで5分お時間いただけますか」「今日の午後、少しだけよろしいですか」。どちらも用件を含んでいないので、相手が準備をして待ち構えることがありません。
断られたら日を指定して聞き直してください。「では明日の15時ごろはいかがですか」。1回で取れなくても、2回目でだいたい取れます。
主任経由にしない
言いやすい相手から入りたくなりますが、主任や先輩を経由すると話が二重になります。
先に主任へ話すと、師長には主任の解釈を通った形で届きます。「疲れているみたいです」に変換されて伝わると、こちらが座る前から引き止めの準備が終わっている状態になります。
相談したい気持ちがあるなら、師長に伝えた後にしてください。順番を変えるだけで、伝わる中身が変わります。主任という役割そのものの重さについては主任を辞めたいと思う人の話のほうに書きました。
第一声を「相談」で始めないでください
ここが分かれ道です。同じ内容でも、入り方ひとつで話し合いの性質が変わります。
具体的に説明します。
相談と報告は別の土俵
「相談があります」で始めると、相手は答えを出す側に回ります。相談を受けた人がやることは、条件を出して解決を提案することだからです。
そこから先は、こちらが持ち込んだ日付ではなく、相手が出した提案について話す時間になります。夜勤を減らす、部署を替える、しばらく様子を見る。どれも善意ですが、辞める日は1ミリも決まりません。
報告として入ると、相手の役割が変わります。決まったことを聞いた人がやるのは、日程の調整と引き継ぎの段取りです。同じ師長でも、座る椅子が違います。
迷いがまだあるうちは相談で入りたくなりますが、そのときは切り出す時期がまだ来ていないだけかもしれません。辞めどきをどこで判断したかのほうを先に読んでみてください。
そのまま使える第一声
実際に口に出す形にしておきます。どれも10秒以内で言い終わります。
- 退職を考えていて日付のご相談です
- 3月末で退職したいと思っています
- 退職願を書いたので受け取ってください
- 今年度いっぱいで区切りたいです
共通しているのは、日付が入っていることです。日付のない第一声は、そのまま気持ちの話として処理されます。
紙を先に出せるなら、いちばん強いのは3つ目です。紙が机に載った瞬間から、話す内容が「辞めるかどうか」ではなく「いつどう抜けるか」になります。退職願と退職届の違いは引き止めに3回遭ったときの話のほうで細かく書きました。
理由は一つだけ短く
理由は1つに絞ってください。並べるほど強くなる気がしますが、逆です。
3つ言えば、相手は3つとも解決しようとします。夜勤がつらいなら回数を減らす、人間関係がつらいならチームを替える、体調が悪いなら休職する。1つでも解決できるものがあれば、そこを足がかりに残す方向へ話が動きます。
選ぶなら、病棟の中では解決できない理由がいいです。「日勤のみの働き方に変えたい」「外来で経験を積みたい」あたりは、3交代の病棟の中では実現しません。嘘をつく必要はなくて、本当の理由のうち動かせないものを選ぶだけです。
体調を理由にするなら、記録があるかどうかで重みが変わります。わたしは6年目の秋に内科を受診しましたが、医師には「最近眠れなくて」としか言っていません。夜勤の前だけ吐き気が出ることも、月の夜勤回数も伝えなかったので、診断書も勤務制限の意見も残りませんでした。体調で押すつもりなら、次の受診で全部話してください。
言わないほうがいい一言
ここは自分の失敗から書きます。言うと後ろに引きずられる言葉があります。
- 迷っているんですけど
- ご迷惑をおかけしますが
- まだ決めてはいないです
- いつ辞めればいいですか
最後の「いつ辞めればいいですか」がいちばん危ないです。日付を決める権利を、こちらから渡してしまう文だからです。わたしは3回目の面談でこれに近いことをして、退職日を相手の口から出させました。
謝りたくなる気持ちは分かります。ただ、謝罪は日付が決まったあとにいくらでもできます。順番だけ守ってください。
折れないための準備は面談の前に終わっています
面談の場で粘る力を鍛える話ではないです。座る前に何を持っているかで、ほとんど決まります。
以下、それぞれの中身を書きます。
引き止めは3回来る
1回で終わると思って行くと、2回目で心が折れます。回数を先に知っておくだけで、耐え方が変わります。
わたしの場合は3回でした。1回目は師長が封筒の中を見ずに「疲れてるだけだと思うよ」と言って、退職願を机の引き出しにしまいました。2回目は年明けで、「夜勤、減らすから」。3回目は看護部長が同席していて、「年度末までなら気持ちよく送り出せる」でした。
形は病院によって違うと思いますが、段階が上がっていくところは共通しているはずです。人が増えるか、条件が具体的になるか、期限を切られるか。どれが来ても「今日は日付だけ」に戻ってください。
面談ごとの具体的な返し方は3回とも押し返せなかったときの記録のほうにまとめてあります。ここでは、前もって準備できることだけ書きます。
数字の出ない条件は保留
引き止めの条件には、数字が入っているものと入っていないものがあります。この2つは別物として扱ってください。
「夜勤、減らすから」には数字がありません。月10回が9回になっても減ったことになります。わたしは2回目の面談でこれを言われて、その場では確かめませんでした。最後まで月の夜勤回数の数字は一度も出ていません。
だから、条件を出されたときに聞く言葉を1つだけ決めておいてください。「月何回になりますか」「いつからですか」「書面でいただけますか」。このどれかを口に出せると、条件の中身が見えます。
数字が出てこないなら、それは条件ではなく引き延ばしです。持ち帰って、日付の話に戻してください。数字が出てきたなら、それは検討する価値があります。残るのも選択肢のうちです。
紙を1枚持っていく
言葉は消えますが、紙は机に残ります。口だけで伝えると、次の面談は前提のないところからやり直しになります。
1回目から退職届を出す必要はないです。退職希望日を書いた退職願で足ります。日付が書かれた紙が1枚あるだけで、話し合いの起点がこちら側に移ります。
受け取ってもらえないこともあります。わたしは引き出しにしまわれて、返してくださいが言えませんでした。そういうときに備えて、同じ内容の控えを手元に残しておいてください。日付を書いて写真を撮っておくだけでも違います。



紙を出した日を、自分の記録として残しておいてください
師長の机で止めない
知らないまま損をする人が多いのがここです。師長には、退職を認めるかどうかを最終的に決める権限がありません。
退職の手続きを進めるのは看護部と人事で、師長の役割は受け取って上へ回すところまでです。だから紙が引き出しにしまわれると、病院としては何も受け取っていない状態のまま日だけが過ぎます。わたしの1回目がまさにこれでした。
意思表示は相手に届いた時点で効力が生じるのが原則です(民法97条1項)。ただ、病棟の師長が病院を代表して受け取れる立場かどうかは、その病院の規程によります。だから確実なのは、師長へ渡したうえで同じ内容を人事にも置いておくことです。
止められているかもしれないと感じたら、この3つで確かめてください。
- 渡した日付をメモに残す
- 同じ内容を人事へも出す
- 受理されたか口頭で聞く
師長を飛び越えるようで気が引けると思います。順番どおり師長に渡したうえで、同じものを人事にも置くだけなので、抜け駆けにはならないです。わたしはこれを知らないまま、引き出しに入った封筒のことを年が明けるまで持ち出せませんでした。
逃げ場は次の入職日
折れるかどうかを本当に決めているのは、性格ではないと思っています。次の予定があるかどうかです。
「4月1日から次が決まっています」と言える人は、退職日を自分で置けます。相手が年度末を提案してきても、そこに動かせない予定があるので話が終わります。逆に次が白紙だと、相手の出した日付を断る理由がこちらに1つもありません。
だから、言えないまま止まっている人がまずやるといいのは、面談の練習ではなく求人を見ることのほうかもしれません。応募しなくてもいいです。自分の地域に日勤の職場が何件あるかを知るだけで、面談で言える言葉が変わります。
順序を間違えると逆に苦しくなるので、辞めてから探すか、決めてから辞めるかの話は転職先が決まってから退職した実体験のほうを見てください。わたしは決めてから辞めた側で、それでも失敗しています。
言えないまま働き続けた秋のこと
ここまで手順を書いてきたので、最後に自分の話をします。
6年目の秋、面談の日は決まっていました。その頃のわたしは、準夜の出勤前に玄関で靴を履いた状態で吐き気と動悸が出るようになっていて、最初は月に1回だったのが、冬が近づくころには準夜の日はほぼ毎回でした。実際に吐いたのは2回です。生理は3か月止まっていました。
言おうと思っていたのは、辞めますではなかったです。夜勤を減らしてほしい、それだけでした。面談室に入る前、廊下で何度も頭の中で並べ直しました。月10回から6回に。せめて準夜だけでも。数字まで決めていたのに、師長の前に座って最初に出た言葉は「来年度も病棟で頑張ります」でした。
なぜそうなったのか、いまだにうまく説明できません。師長は優しい人でした。怒鳴られたことも、圧をかけられたこともないです。ただ、その日の病棟が忙しくて、面談の時間が押していて、師長の目が少し疲れていて、それだけで自分の話が「わがまま」に見えてしまった。
帰り道にコンビニでアイスを買いました。駐車場に停めた車の中で、エンジンをかけないまま食べながら泣きました。何が悔しいのか、そのときは分からなかったです。夜勤が減らないことなのか、言えなかったことなのか、区別がつきませんでした。今なら分かります。あの日わたしが失ったのは夜勤の回数ではなくて、自分の勤務を自分で決められる立場のほうでした。
そこから冬までは早かったです。深夜勤の途中、輸液の準備をしながら意識が遠のいて、ラベルの文字が一瞬読めなくなりました。先輩に声をかけられて我に返っています。夜勤明け、コンビニの前で立ち尽くして、入る気力も帰る気力もありませんでした。その週に退職願を書いています。
12月に出した退職願の希望日は1月末でした。辞めた日は3月31日付です。引き止めは3回、3回目には看護部長が同席していて、最終的にわたし自身の口で「3月末で」と答えました。2か月、自分から差し出した形です。しかも面談が終わったあと、廊下の窓のところで「決まった」とほっとしてしまいました。あの瞬間の安堵に、今でも納得できていません。
延びた2か月のあいだに、次の職場の入職日を2月から4月へずらしてもらいました。エージェントの担当にも病院にも頭を下げさせて、その負い目で「夜勤少なめ」が月何回なのかを確認できないまま入職しています。入ってみたら夜勤は8〜10回で、病棟時代とほとんど変わりませんでした。1年で辞めています。
だから、いちばん高くついたのは言えなかった秋ではなく、言ったあとに折れた冬でした。秋に失ったのは半年です。冬に折れたことで失ったのは、そのあとの1年ぶんの夜勤と、選び直す機会でした。
あと1つだけ書いておきます。母には転職を事後報告しました。「夜勤やめたら給料下がるんでしょ」と言われて、「うん、ちょっとね」とだけ返しています。意識が遠のいたあの夜のことは、心配をかけるので今も話していません。同期にも最後まで自分から言えませんでした。伝えたとき、おめでとうは言われなかったです。言えない相手は師長だけではなかった、というだけの話ですが。
2回目の転職で使ったのはMCナースネットでした。まず派遣で日勤の職場に入ってみて、合うと確信してから同じ担当の紹介で正社員に切り替えています。年収の交渉まで担当がやってくれて、370万から430万になりました。1回目で大手1社しか見なかった反省があるので、ジストリーにも登録して求人の相場を見比べています。
今すぐ登録してくださいという話ではないです。ただ、次の入職日を口に出せる状態かどうかで、面談で折れるかどうかが決まります。MCナースネットで自分の地域の日勤求人と入職できる時期を見てみるところからでも、間に合います。
求人の詳細まで見るには登録が要ります。連絡が重なるのが不安なら、登録の時点で連絡手段と時間帯を指定しておいてください。夜勤がある人がここを伝えないと、寝ている時間に電話が鳴ります。
担当との相性や、派遣から紹介へ切り替えたときの流れはMCナースネットを使ったわたしが正直に書いた記事のほうに置いてあります。
看護師が師長に辞めたいと伝えるときのよくある質問
切り出す前後で聞かれることが多いところをまとめました。
- 退職の意思を伝えてから何日で辞められますか?
-
期間の定めのない雇用なら、申し入れの日から2週間で終了します(民法627条1項)。ただし2週間で抜けると引き継ぎも有給の消化も間に合いません。強行する手段ではなく、日付を動かせない根拠として持っておいてください。
- 辞めたい理由を正直に言わないといけませんか?
-
詳しく説明する義務はありません。理由の内容によって退職できるかどうかが変わることもないです。伝えるなら1つだけ、病棟の中では解決できないものを選んでください。
- 師長が忙しそうで、何週間も声をかけられません。
-
声をかけるのではなく、時間を予約してください。「今週のどこかで5分お時間いただけますか」と用件を伏せて頼めば枠は取れます。付箋やメモで渡す形でもかまいません。
- 年2回の面談まで待ったほうがいいですか?
-
待たなくていいです。面談は評価と配置のための場なので、秋に言えないと次は年度末になり、実際に辞められるのが1年先になります。別枠で時間をもらってください。
- まず主任や先輩に相談してからのほうが安全ですか?
-
順番を変えると、師長には解釈が通った形で届きます。座る前から引き止めの準備が終わっている状態になるので、相談するなら師長へ伝えたあとにしてください。
- 「あなたが抜けたら回らない」と言われたら何と返しますか?
-
人員配置は病院側の仕事なので、こちらが責任を負う話ではありません。「ご迷惑をおかけしますが、日付だけ先に決めさせてください」と、謝罪と日付を分けて返してください。
- 「夜勤を減らすから残って」と言われました。信じていいですか?
-
月何回になるのか、いつからなのかを必ず聞いてください。数字が出てくるなら検討する価値があります。わたしは聞かないまま2か月延びて、月の夜勤回数は最後まで示されませんでした。
- 師長に言ったら病棟中にすぐ広まりますか?
-
伝わる時期を決めるのは師長のほうです。広まる前提で身構えるより、面談の場で「同僚にはいつ頃お伝えしますか」と聞いてしまうほうが楽になります。自分の口から先に言いたい人がいるなら、そこで名前を出しておいてください。
- 2交代の病棟でも同じ考え方でいいですか?
-
日付の作り方は同じです。ただ2交代は16時間夜勤を2日ぶんの勤務として扱う病院が多く、月の勤務日数が15〜17日に落ちます。有給や引き継ぎの日程を組むときは、先月の勤務表で自分の勤務日数を数えてから割ってください。
- 師長が退職願を上に上げてくれているか分かりません。
-
受理されたかどうかを口頭で確認してください。師長には最終決定の権限がなく、進めるのは看護部と人事です。渡した日付を控えたうえで、同じ内容を人事課か総務課にも届けておくと止まりません。
- 次を決められない事情があります。それでも辞めていいですか?
-
辞める判断と、次を決める順番は別の話です。収入が途切れる期間が不安なら、失業給付の受給要件と給付が始まる時期を先にハローワークで確認してください。そのうえで、つなぎ方を決めるほうが順番として安全です。
- 退職願を受け取ってもらえませんでした。どうすればいいですか?
-
提出した日付が分かる控えを残してください。写真でもかまいません。そのうえで、同じ内容を人事課か総務課にも届けると、病棟の中だけで止まらなくなります。
- 体調が理由なら診断書は必要ですか?
-
退職に診断書は要りません。ただ、勤務の調整を求める場合は記録の有無で扱いが変わります。受診するなら、症状だけでなく夜勤の回数と出る時間帯まで医師に伝えてください。
- 体調を理由に夜勤を外してもらう制度はありますか?
-
法律で請求できるのは、小学校就学前の子の養育または家族の介護を行う人の深夜業制限です(育児介護休業法19条・20条)。体調だけを理由にする場合は職場の運用次第になるので、師長ではなく人事にも同時に相談してください。
- 退職ではなく院内の異動希望を出すのはありですか?
-
ありです。日勤部署が院内にあるなら、来年度の希望調査の紙で出せる病院が多いです。わたしは一度も出さずに辞めたので、試さなかった選択肢として書いておきます。
- 一度引き止められて残りました。もう言えない気がします。
-
2回目は前より言いにくくなります。だからこそ、次は条件が守られているかを数字で確認するところから入ってください。「先月は月何回でしたか」は、退職の話を持ち出さずに切り出せます。
- 辞めてから転職先を探すのは危険ですか?
-
収入が途切れるぶんのリスクはあります。無職の期間をつなぐなら、カイテクのような単発アプリを使う人はいます。わたしも退職後の期間に使いました。
- どうしても自分の口から言えないときは?
-
紙を出すだけでも成立します。それも難しい状態が続くなら退職代行という手段もありますが、費用と使いどころがあるので、先に退職代行の費用と注意点のほうを読んでから決めてください。
まとめ:師長に伝えるのは気持ちではなく日付です
準備するのは覚悟ではなく、紙に書ける3つの数字です。それさえあれば、話す時間は1分もかかりません。
あらためて、この記事の内容をまとめます。
- 先に3つの数字を紙に書く
- 言う日はシフト締切の前
- 座れる場所を先に取る
- 第一声は10秒で終える
- 相談ではなく報告で入る
- 理由は1つだけ短く言う
- その場で返事をしない
- 数字の出ない条件は保留
- 次の入職日が逃げ場になる
わたしは秋に言えなくて、冬に言えたのに3回折れました。折れた理由は性格ではなくて、次の予定を持たないまま面談に座ったからです。日付を出せない人の言葉は、どれだけ正しくても押し戻されます。
今日やることは1つで足ります。紙に退職希望日と最終出勤日、それと理由の一文を書いてください。書けたら、次の勤務で5分もらう約束だけ取りに行けば終わりです。
言えないのは弱いからではないです。わたしも言えませんでした。それでも今は日勤だけで働いていて、日曜の夕方に次の夜勤を数える癖はなくなりました。








